サラリーマンの頃タイに駐在していたがその時も裁判所に行ったことがある。
社員を日本に1年間研修に出すのだが帰国してから3年間は退職してはいけない誓約書を書かせる、その誓約書があるにも関わらず帰国して2年目で退職をしたので我々、会社側から辞めた社員を訴えたのだ。
日本の法律では研修を受けさせることで一定期間辞めさせないと言うのは通らない。しかしタイでは合法だった。
日本企業などが社員を本国に研修で出すことはよくあることでその社員がタイに戻ってきて仕事をしてくれるのはとても企業に取っては重宝であったし、ひいてはタイ経済の発展に寄与していたものと思う、だからタイ政府もそれを認める法律にしていた。
タイの労働法はすでにできていて守らない中国や韓国企業は厳しく政府が指導摘発していた。またタイは南国ののんびりしたイメージはあるが経済関連の法律やシステムはそれなりにしっかりしたものを作り上げていた。
私はタイ人の官僚を何人か知っているがいずれの人も優秀だった、国の将来を考えて海外で学んだことをタイの政府、経済、社会システムに当てはめるべく働いていたのを知っている。
なので労働法も裁判も近代化されたシステムが出来上がっていた。
さて法廷に行く前に何度か資料のやり取りをした。繰り返すがタイの法律では研修後一定期間退職できないのは合法だ。だから勝訴することは間違いがない。
ただ論点として日本で研修を受けていたのかそれとも単に労働者として行っていたのかという点があった。ここは難しいもので実際には研修のプログラムを作ってやるのだが、優秀だとついつい現場は研修者としてではなく現場の社員として使ってしまう。
裁判官もそのあたりはよく知っているようで、全く研修をしていないのであれば問題だがそれなりに研修を行っているのであれば過去の判例をみてもよしとするつもりであったものと推測していた。
事実の確認作業は書類でほぼ終わっていたが、最後に法定が開かれ証人として私は会社を代表して証言者として出席した。私は日本から取り寄せたキングファイル1冊にもなる書類を持参し目を通しておいた。
最初裁判官から名前、住所、役職を聞かれた。
その後裁判官から二つ目の質問、
「あなたは日本のその現場にいましたか?」
「いえ、いませんでした。」
「ならば証言は必要ありません。」
一応裁判には勝ってはいるが、裁判所で伝聞は意味をなさないのだとその時初めて知った。
2020年10月7日