私の父が亡くなり4年になる。
私の父は昭和一桁生まれで戦中同級生が次々と徴兵されていったが運よく戦争に行かなくてすんだ。
関西の地方都市の長男として生まれた父は成績がよく地元の大学に進学できるものと思っていた。
中学校(現在の高校にあたる)の先生から君なら行けるので頑張りなさいと言われ家に帰ると両親からお前は長男だから大学に行かずに家を継げと言われた。
地方都市ではそれがおかしな話でもなく悔しいと思いながらも兄弟5人と両親の家計を助けるために地方鉄道に就職した。
酒は飲むが女も博打も一切やらず、真面目で几帳面な彼はどんどん出世し40歳で役員になった。おそらく会社には年配の社員は戦争でほとんどいなかったことも幸いしたのだろう。
30年近く役員を務め67歳で退職、60歳から厚生年金をフルで受け取っていた。
酒を飲むと時折あの時無理を言って大学にやらせてもらったらよかった、と言っていた。その大学を出た部下が何人も会社に入ってきたが「大したことないんや」とも言っていて大学に行かなかったのは父のコンプレックスだった。
だがだれからみても地方都市における小さいかもしれないが成功者の一人だった。
「残酷すぎる成功法則」エリック・バーカー著を読んで父のことを思い出した。
成功するための本が沢山あるがその集大成のような本だ。
学校の偏差値は低いのはまずいがそこそこの高さでいい、メンターを見つけるべき、小さな目標を作ってゲーム感覚でやる、社交的内向的どちらでもいい、努力する環境を整えよ、などなどだ。
どれもどこかで聞いた話ではあるが、中で面白かったのは適切な目標を持つべきというものだった。
野球で言えば昔は県内で一番の投手だったらそれだけで立派だった。しかし今は目指そうと思えば甲子園、プロ野球の世界にチャレンジすることを誰も引き止めない。今や大リーグも行くことができる。
だが同時に挫折することにもなる、無制限な高い目標は人を不幸にする。
私の父も今の時代だったら親が全面的に進学を支援しただろう。地方大学でなく東京大学を目指したのかもしれない。
父は東京大学に合格できたのだろうか。合格して東京に出て来て就職して出世できたのだろうか。
父のことだからうまくやったと思うが、一方で世の中そんな甘くないことを私は知っている。
父は時代が彼を大学に進学させなかったが、一方で時代がちょうどよい目標を父に与えたのだと思う。
2023年7月9日