私がトルコのイズミルに長期滞在したのはイラク向けの仕事だった。
当時イラクは莫大な石油収入がありながらイラン・イラク戦争の出費で輸入品の支払いが遅延しだしていた。日本企業は新たなビジネスは無理で債権回収を図らないといけない状況になっていた。
そんなイラクに対してトルコ政府は融資をつけたのだ。
新しいビジネスができる。
トルコ製品をイラクに輸出した場合トルコ政府が支払いを保証すると言うものだ。客先のイラクが支払いを滞らせてもトルコの中央銀行が代わりに支払ってくれる。
今のトルコは経済的困窮でトルコリラが暴落しているが、当時のトルコもインフレが40%前後あった。しかしデフォルトまでは程遠く、トルコ中央銀行が保証してくれるならば十分だった。
ただイラクが欲しいのはトルコ製品ではなく日本製品だ。日本製品の代わりにトルコ製品をイラクの顧客に提案しても見向きもしない。
トルコ製品とは何かとトルコ政府の資料を読むと「トルコ製品が50%以上含まれているもの」と書いてある。
そこで日本製品の心臓部分をトルコに輸出し、残りの部分をトルコで製造して完成品にしてイラクに輸出することとした。
そしてイラク側も心臓部分が日本製であればいいということで了解をもらいビジネスは成立した。
そんなことをやりに私はトルコのイズミルに2ヶ月滞在していた。
トルコは世界が見捨てたデフォルト寸前のイラクに融資することで手を差し伸べたのだ。
トルコに視点を置くと湾岸戦争でアメリカの敵とされたイラクは隣国だ。悪の枢軸国とアメリカに言われたイランとも接している。内戦のシリア、加えてギリシャ、ブルガリア、ジョージア、アルメニア、アゼルバイジャンと8か国が隣国だ。
しかも国内には国家も持たない最大の民族と言われるクルド族、シリアからの難民、までいる。
トルコはそんな多くの隣国と複雑で長い外交を続けている。
スウェーデン、フィンランドのNATO加盟を拒否したことで注目を浴びているがトルコにはトルコの事情があるのだ。ロシア・ウクライナの調停をかってでたりしているが、トルコは中東・東ヨーロッパで侮ってはいけない存在だ。
2022年6月8日