ドラコの資産運用 織田俊夫

政治、経済、社会、を常識眼で分析すれば資産は10倍になる

短編未来小説「ニューライフ」その4、沖縄の青い海

 凛子とふたりで沖縄に来た。

 沖縄の海はもしかすると世界で一番きれいかもしれない。サイパン、ハワイのマウイ、タイのプーケットも凛子は行ったことがあるが、透明度と青さはやっぱり沖縄の海が一番だ。特に沖縄の冬は暑くも寒くもなくて過ごしやすい。

 英知と凛子が新宿の喫茶店で会って半年になる、年末の休みを利用して沖縄にきた。

 沖縄に来たのは結婚相談所の自己紹介の趣味欄に二人ともそれぞれスキューバダイビングと書いてあったからだ。沖縄はここ数年移住者が増え、さらに外国人観光客が増えてなかなかホテルが取りづらかったのだが何とか取ることができた。

 凛子は仕事が先に終わったので3日ほど先に来ていた。空港に迎えにきた凛子はすでに潜ったようだ。日焼けの顔に南国らしくカラフルで大胆なミニマスク(ビキニマスクと言うらしい)をしていて色っぽい。

 この休みに沖縄行くかどうかずいぶん迷った。

 迷ったのは昨日住民投票が予定されていて街がざわついているかもしれないと思ったからだ。それと沖縄県入りするには新型コロナウイルスの免疫を持っているという証明書(ブルーカード)がないと飛行機に搭乗できない。英知も凛子もどこで感染したのか記憶はないがたまたま免疫は持っていた。ただ年末忙しい時にそのブルーカードを保健所まで取りに行くのがちょっと面倒だった。

 10年前から日本政府の水際作戦が成功して新型コロナウイルスA,B,C型は沖縄には入ってこなかった。だが中国からの観光客はほぼゼロになりインバウンドがけん引していた経済が成り立たなくなってしまった。日本政府は国民に沖縄への旅行を推奨(ゴートゥーキャンペーン)してきたが本土も長期の不景気で新型コロナウイルス前のような経済には戻れていなかった。

 そんな状況で2年前沖縄で新型コロナウイルスA,型、B型, C方が同時に突如広まってしまった。沖縄県知事はすぐに緊急事態宣言を出したが、比較的涼しい12月でもあったため一気に広がり医療体制はすぐに崩壊した。

 日本政府は本土から支援を行ったが初動でかなりのもたつきがあった。その間に中国政府は8年前に武漢で使った人工呼吸器やECMOなどの設備1万台を那覇に空輸した。PCR検査で無感染を確認した「国境なき医師団」の医師、看護師など医療関係者1万人も即座に沖縄に派遣した。

 当時沖縄県知事は保守であったが県民が次から次に倒れていく状況でかつ日本政府の対応が後手になったのでこの援助を受け入れるしかなかった。

 台湾は世界で一番早く沖縄の支援を行ったが、台湾は10年前に水際作戦が成功したため免疫を持った医師や看護師が少なく派遣できる人数は限られた。

 相当数の死者を出して6か月で感染は収束していった。その結果沖縄県民の90%以上が新型コロナウイルスの免疫を持つことになった。沖縄では新型コロナウイルスは普通の病気、別の言いかたをすれば普通に流行っている病気となった。

 これで免疫を持たない日本本土の人達は簡単に沖縄に観光に行けなくなってしまった。

 そこで再び出てきたのが中国だ。中国は大量の観光客を沖縄に送り込んだ。沖縄の人達は免疫を持ってしまったのでウイルスを持っているかもしれない中国人観光客は問題ない。これで沖縄の経済は復活した。

 コロナウイルス蔓延の日本政府のまずい対応で沖縄県民の気持ちは日本を離れ、そして観光経済が中国に依存することとなった沖縄は昨日県民投票をした。55%の賛成で日本政府からの独立が決議されてしまった。

 10年前の世論調査では99%が中国への帰属を県民はありえないとしていた。そしてコロナウイルスが蔓延した惨憺たる状況で日本政府への怒りと不満が鬱積した2年前でも沖縄の独立案は70%の人が反対していた。

 しかしこの1年に本土にいた中国人の留学生、外国人技能実習生、などの40万人が大挙して沖縄に移住した。

 その結果人口は140万人から180万人に増えた。この10年で人口が増えた都道府県は東京都と沖縄県だけだ。

 沖縄県では川崎市のように住民投票に外国人にも投票権が与えられていた。もちろん決議された住人投票に法的効力があるわけではないが、いま沖縄県は中国の後押しを受けて独立へ大きく動き出した。

 沖縄のコロナウイルス蔓延については中国がウイルスを持ち込んだとネットでは噂されているが証拠はない。事実かどうかは今はもう関係ないと言っていい、沖縄はもう後戻りできない独立への推進力を得てしまった。

 こうして沖縄の米軍基地は日本政府に怒りを持つ半数の沖縄県民と中国への帰属を望むほぼ同等の数の中国人に囲まれている。

2020年5月11日