1995,6年のことかと思う。
私はウクライナのキーフ(かつてのキエフ)に出張に行っていた。
まともなホテルは世界のジャーナリストが来ていてどこも満杯だった。お世辞にも綺麗と言えないところに何とか宿をとった。ホテルの部屋の鍵がかからないのでソファーをドアの前において寝た記憶がある。
帰国する日、道路も規制で渋滞していた。
空港に向かうためかなり早めの5時間前にホテルを出た。
他の部門の同僚とともに会社の車で空港に向かうことにした。
ホテルから出たら全く車が動かない、簡単に1時間が過ぎ2時間が過ぎる。このままでは飛行機に間に合わない。
運転手が言うにはクリントン大統領の訪問で治安のために高速道路が閉鎖されている、それに加えて空港に行く道も含め街全体の検問が厳しくて大渋滞になっているらしい。
飛行機乗れないかもしれないなあ、と同僚と半分諦めて話をしていた時に、突然運転手が「あそこから入っていいか?!」と言った。
川の土手から高速道路に道繋がる土を盛った勾配急な坂がある。
ウクライナの高速道路は無料なので料金所はないものの出入口は日本と同じように整備されている。それ以外の所から高速道路に入ることはできない。しかし日本と違っていい加減なところがあって、地元の人達がこっそり使ったり工事のあと取り残された出入口がたまにある。
「いけ!!」と言う感じで若さもあって運転手に言った。
坂を上って高速に入ると運転手は100キロをはるかに超える猛スピードで走りだした。車は一台も走っていない、ウクライナ警察と軍が規制しているので車は入ることができないから当然だ。
500メートルも走ると道際に兵士がマシンガンを背中にして道路側を向いて立っている。
見れば我々に直立不動で敬礼している。
思わず同僚と私は兵士に向かって敬礼をした。
兵士にしてみれば規制のかかった高速道路を猛スピードで走るのはVIPに違いないということだろう。
そのあと500メートルごとにマシンガンを持った兵士が直立不動で敬礼をしている。
その都度我々も車の中で敬礼を繰り返し猛スピードで走り抜けた。
「あのマシンガンで撃たれるかも」などと半分冗談半分本気で会話をしていた。
20分もしないうちに空港入り口に到着。
そこでやはり検問があった。どうやら車での出入りはできないと検問所の兵士は言っているらしい。
だが何回かのやり取りの後我々は車に乗ったまま通り抜け空港に入ることができた。
後で聞いたのだが運転手は、「後ろに乗ってる二人は日本大使館員だ、クリントン大統領出発前に会うことになっている」と言ってたそうだ。
2022年5月30日