「第三次大戦はもう始まっている」エマニュエル・トッド著を読んだ。
エマニュエル・トッド氏はフランスの歴史人口学者、家族人類学者だ。
トマ・ピケティ―氏、エマニュエル・トッド氏の二人はフランスの社会学の偉人だと私は見ている。
今回はウクライナ戦争での緊急出版だ。
いつもながらトッド氏の洞察力はすごい。概ね私が主張していることに近い部分があるが、それよりはるかに深堀がなされている。
冒頭で「戦争の原因と責任は米国とNATOにある」と言い切っている。
私もまったく同意する。多くの保守中道論客がプーチン大統領を非難しているが、実際この戦争は米国とNATOが本来手を出してはいけないウクライナまで勢力圏を伸ばそうとしたことに原因がある。
もし米国とNATOがウクライナにちょっかいを出さなければ、ウクライナでは親ロシア政権がロシアとの関係を継続し、一方でNATOとは距離を置きながらも平和裏に友好関係が続いたはずだ。
実際に2014年マイデン革命で親ロシア政権を暴力で(裏でアメリカが動く)倒すまでそんな平和な時期があった。
アメリカ・NATOのちょっかいがなければ、ロシア側の中立国と言う立ち位置で平和が保たれたはずだ。それは米国NATO側でありながら中立を守ってきたスウェーデン、フィンランドの立ち位置に似ている。
もう一つのトッド氏の主張は「ロシア経済よりも西側経済の脆弱さが露呈するだろう」と言う点だ。
保守中道論客は経済制裁によってロシアは破綻するとしていたが、ロシアが破綻する兆候は戦争開始後半年近く経ってもない。そればかりかルーブルはウクライナ侵攻以前より高くなっている。
世界で経済制裁をしているのは日本・韓国を含めた広義の西側諸国の国であって、中国、インド、イラン、トルコ、を含む大勢は経済制裁をしていない。中国は全面的にロシアを支援するので経済制裁は効果が限られているとする。
さらにロシアは天然ガスなどのエネルギー資源を持っており冷えあがることはない。むしろ困るのはNATOのドイツ、フランスだとしている。
実際に両国の国民は激しいインフレに苦しんでいる。トッド氏はドイツ国民は反ロシア感情が強くこのまま自殺的な(つまり天然ガスをロシアから止められる)決断をするかもしれないとしている。
さらに最近のロシアの平均寿命は伸びており、少なくともウクライナ戦争開始以前までは経済・社会はかなり安定していて、簡単にロシアがアメリカに屈服することはないとトッド氏は述べている。
2022年8月4日