仏の歴史人口学者・家族人類学者のエマニュエル・トッド氏が11月9日文春オンラインでウクライナについてインタビューを受けている。
フランスの学者の意見は社会全体や歴史を含めて分析する傾向があって深みがあって米英系とは違った視点で考えさせられることが多い。
トッド氏は例えば家族形態と政治形態の類似について述べたことがある。
共産主義や民主主義などのその国の政治体制は家族の形態が基本になっているという論理を展開している。家族形態が似た国では同じような政治体制になるという見方だ。
中国やロシアの家庭は家父長の力が強く兄弟姉妹は平等らしい。こういう家族形態は共産主義のような独裁者とそのほかの大勢の人民がいる政治体制になる。フランスのよおうに親子関係が対等で兄弟姉妹が平等な家族形態では自由主義的な政治体制になる。日本やドイツなどは伝統的に家父長が強くて長男が家を継ぐので政治形態が似ているとしている。
トッド氏はウクライナ戦争について戦争開始時点から意見を述べ続けている。概ね私の意見と一致することが多い。
今回トッド氏は以下のように述べている。
「我々はいま、ウクライナ戦争の報道を日々眼にしていますが、西側の主流メディアは、最も肝心な“現実”をきちんと伝えていません。西側陣営が直視できていない“現実”とは、米国がすでにウクライナ戦争で負けてしまったことです。」
私はウクライナは負けると主張してきたが、トッド氏はウクライナどころかアメリカが負けてしまったと一刀両断している。
米国がすでに負けてしまった理由として以下の通り。
「『長期戦』で軍需品を消費し続ければ、『高度な軍事技術』よりも『兵器の生産力』が課題として浮かび上がってくる。米国にとって『生産力』の問題がこれから重くのしかかってくる。」
トッド氏は米国は産業の空洞化をしているがロシアはそれがないので軍需産業の足腰が強い。それが米国がウクライナ戦争で負けてしまった理由だとしている。
そして
「勝敗はすでに決しているのに、空約束の軍事支援で米国はウクライナに戦争継続を強いている。」と結んでいる。
トッド氏は決してロシア派でもないしフランスにたまにいる反米思想の持ち主でもない現実を直視し続けている政治社会学者だ。
2023年11月11日